続・しごと日記 〜新人君は見た!〜

[11] 冬の配達  (2007年2月号)

  新聞をポストまで取りに行くのもおっくうになる、寒い冬です。
我らが新人君も、入社してまもなく1年。新人君にとって「最後の試練」となる?冬本番です。 新聞販売店でも、最も厳しい季節です。新人君は、この冬をどのように過ごしているのでしょうか? 今回も新人君の日記をのぞいてみましょう。

○月×日

 午前0時、目覚まし時計が鳴る。
  朝刊出勤の時間だ。んんん……布団から出るのがつらい……。
  最近、毎日こんな感じで2度寝、3度寝を繰り返す。おかげで毎日タイムカードは遅刻すれすれだ。 「えいっ」と気合を入れて布団から抜け出す。

 出勤して配達の準備が終わっても、今度は配達に出発するのにひと踏ん張り必要になってくる。 ベテランの先輩たちはさっさと配達に出発するのに、なかなか腰が上がらない……。
  この頃、寒さのせいでバイクのエンジンのかかりが悪い。そのせいにしている、情けないぼくがいる。 何はともあれ、「えいっ」と気合を入れて配達に出る。
  いったいぼくは1日に何回気合を入れているんだろう……。

  配達に出ると、やっぱり寒い。この一言に尽きる。
  先輩に習った、軍手2枚の重ね着(?)は効果抜群だ。 これがなければもっとつらいだろう。 寒いながらも配り進んでいく。
  「いったい今の気温は何度なんだろう?」 そんなことを考えながら配達していると、 凍った路面にタイヤが滑りそうになる。
  「そういえば、このお宅、昨日の夕刊のときに家の前で洗車していたなあ……」
  目を凝らしてみると、あたり一面、凍結した路面がキラキラと光っている。
  「ええー」と思いながらハンドルを持つ手に力が入る。

 先輩によると、雪の日はもっと大変だという。
  天気予報で『雪』の予報があると、前日は早めに仕事を切り上げて、バイクのタイヤに チェーンを巻いたりしておくそうだ。雪が降り出すと、店舗の前で雪かきが始まる。バイクに 新聞を積み込むときに滑らないよう、みんなで必死になって雪かきをする。新聞も、雪に備えて、 早めに販売店に輸送されてくるらしい。

 店長が、以前、坂道の急なエリアを配達していた頃の雪が降った時の話を聞いたことがある。
  坂道を登りながら配り切ったけど、その間に雪が積もりすぎて、坂を下れない。 『肩紐』って呼ばれる帯(新聞少年が肩から斜めに掛けて徒歩で配っているイメージのあのタスキ) に残りの新聞を挟んで、歩きながら配ったんだって。 新聞がなくなると、坂の頂上に止まっている バイクまで新聞を取りに行き、また徒歩で配りながら下りてくる。
  そんなことを何回か繰り返して、ようやく坂のふもとまでたどり着いたら、最後のお宅の ポストに手紙と一緒に小銭が貼り付けてあったそうだ。手紙を開いて読んでみると「新聞屋さん、 雪の中ご苦労様です。このお金でコーヒーでも飲んで暖まってください」と書いてあったそうだ。
  そのお宅は、なかなか集金でお会いできなくて「新聞代をポストの中に入れておくので 持って行ってください」なんて言われ、そのたびに「ポストにお金を入れておくのは物騒だし、 絶対やめてください」といつも対応していたが、その時だけは、小銭をありがたく頂戴したとのこと。 店長の中では一番心に残っているエピソードだそうだ。

  今年は暖冬で、スキー場では雪不足の心配がされていますから、今のところ、新人君が 店長のようなハートウォーミングな経験をする機会はなさそうです。
  ただ、この寒さを乗り越え春の訪れを聞くようになると、新人君も入社からちょうど1年になります。 身も心もたくましくなって、新しく入社してくる後輩たちに自分がいろんなことを教えるようになるのです。

 次回で「新・しごと日記」も最終回。新人君は、春先の引っ越しシーズンを体験することになります。

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